優しい鎖5
それから数日間、黒崎教諭は朝輝に対して全く接触して来なかった。
これまでと何も変わっていない、優しくて良い先生であった。
が、金曜日の放課後帰路に着こうとしていた朝輝に黒崎教諭は接触してきた。
「これ、家に帰ったらみてみるといいよ」
いつもと変わらぬ態度でそう告げ、朝輝にA4サイズの封筒を渡した教諭はそのまま去っていった。
朝輝は手渡された封筒を仕方なく鞄にしまい、学校を出た。
(何で…こんな物が)
数時間後、朝輝は血の気の引いた顔でパソコンの画面を見つめていた。
その10分程前、食事を済ませ自室に戻った朝輝は、教諭から手渡された封筒を鞄から出した。
封筒の中にはDVD-Rと二つ折りにされたメモ用紙が入っていた。
朝輝は訝しく思いながらも、パソコンの電源を入れDVDを再生した。
そして、朝輝は愕然とした。
そこに映っていたのは忘れられない1年前の出来事…そう卓実と結ばれてしまったあの日の行為が映し出されているのである。
静かな室内に自分の喘ぎ声と卓実が朝輝自身に絡める舌の音が響いている。
朝輝は直ぐにでも停止を押したかった。
しかし、動揺して体が思い通りにならなかった。
呼吸しているので精一杯という状況だっのだ。
少し時間が経って朝輝は漸く震える手でマウスを動かしあられもない姿で卓実と交わっている自分の画像を閉じた。
そして朝輝は操られる様に二つ折りにされたメモ用紙を手にとり開いた、そして目を通したそのメモ用紙を右手で握り潰し、ゴミ箱の中に叩き付けた。
次の日朝輝は数学準備室の前にいた。
メモの指示に従って。
“DVDを処分して欲しければいつもの場所で逢いましょう。”
メモにはそう書かれていた。
だから朝輝はこうしてやって来たのだ。
「失礼します」
ドアをノックして、朝輝はそう言ってドアを開けた。
そこには黒崎教諭が足を組んでソファーに座っていた。
中に入りドアを閉めた朝輝はそのまま一歩も動かず、黒崎教諭を睨み付けた。
「こっちに来て座ったら?」
「あれはどこで手に入れたんですか」
黒崎教諭の誘いを無視して朝輝は冷たい声で訊いた。
始めは微笑んだまま首を傾げていたが、朝輝の態度に仕方なくといった感じで口を開いた。
「香堂雅紀君、知ってるよね?」
黒崎教諭の言葉に朝輝の表情に一瞬恐怖が過った。
知っているどころではない。
香堂雅紀は取巻きを使い、朝輝に嫌がらせを繰り返し、強姦しようとまでした男だ。
あの一件の数日後には雅紀本人と取巻きの数人は学校を去っていった。
ではなぜ、黒崎教諭が彼の存在を知っているのだろうか…。
「偶然だよ」
朝輝の心を見透かしてでもいる様なタイミングで黒崎教諭は答えた。
しかも偶然という言葉を敢えて強調して。
「まさか…」
朝輝は信じられずそう呟いた。
「本当だよ。私がいた学校に彼が転校して来たんだ。彩条院に目を付けられたって噂と共にね。そのせいで誰も彼に近付こうとしなくてねー可哀相だから仲良くしてあげていたんだ。君に酷い事をしたとは当然知らずにね。彼あれで君に関係を強要するつもりだったそうだよ。泣きながら最近話してくれたよ」
「で、それで俺に関係を強要しようとしているんですか」
「ああ。もちろんこんな事はしたくないんだが…。こうでもしないと君が屈しないと思ってね」
笑顔でそう言った黒崎教諭に朝輝は感情をぶつけた。
「なぜ…なぜ俺にこんな事をするんですか!俺のどこにあなたをそこまでさせるものが在るっていうんですか」
朝輝の叫びにも黒崎教諭とっては何の意味も成さなかった。
ただ黒崎教諭は楽しそうに朝輝を見つめてクスリと笑った。
「さてと、そろそろ本題に入ろうか。藤崎君」
黒崎教諭はそう言って立上がり一向に近付こうとしない朝輝の目の前に立った。
そしてドアの鍵を掛け、朝輝の逃げ道を閉ざした。
「私の要求に応じてくれるよね?」
黒崎教諭が一応朝輝に尋ねた。
この時点で答えははいしかないというのに…。
「…わかりました」
朝輝は消え入りそうな声で言った。
そんな朝輝を満足そうに見ながら黒崎教諭は自分のネクタイを外し、シャツのボタンの上4つを外した。
「ここに契約の印を付けなさい」
鎖骨の窪みを指差して黒崎教諭は朝輝に命じた。
ためらいをみせる朝輝に、
「本当は君の体に付けたいんだけど…見付かったらつまらないからね。君が私に付けなさい。さぁ…早くしなさい、藤崎君」
黒崎教諭命じられ、朝輝は唇を黒崎教諭の鎖骨の窪みに埋め痕を付けた。
黒崎教諭は満足してニヤリと笑い鎖骨から離した唇に貪る様な口付けをした。
「ああ、これから2人っきりになる時は誠一さんと呼びなさい。分かったね?」
口付けの合間に黒崎教諭は送り込まれた唾液を飲み込めずに、口元からたらしている朝輝にそう命令した。
朝輝は息苦しさから肩で息をするばかりだった。
「…じゃあ早速要求に応じてもらおうかな」
朝輝を抱き上げソファーへ運んだ黒崎教諭はそのまま朝輝を組み敷いた。
(卓実…ごめん)
朝輝は何度も何度も心中で卓実に懺悔した。
しかし、朝輝の体は始められた愛撫に反応し始め、心を裏切り艶めいた声を洩らし始めていた。
こうして朝輝は捕われた。身動きの取れない重い、重い鎖に…。