1.初補習


今日も暖かな日差しが降り注ぐ一日だった。
授業の終わりを告げるチャイムの音が校内に響く。
それに続き聞こえる生徒達の声は一日の授業を全て終えたという喜びに満ち溢れていた。
桐生は職員室へ一旦戻り、受け持つ授業で使った教材から放課後補習の教材に持ち替える。
使う教材を整えていると昨日の出来事が脳裏をよぎり、不安な気持ちが沸き起こった。
「桐生先生、これから補習か?」
不意にかけられた声に物思いに耽っていた桐生は驚き、肩を跳ねさせ声のした方を振り返る。
「あ、ああ…五十鈴先生。」
振り返った先に居たのは長身を白衣に身を包んだ五十鈴哉明だった。
白衣に身を包んでいる事からも判るが彼は化学の担当で、3年D組の担任でもあった。
真面目で堅物な五十鈴は生徒達には怖がられている節があるようだが、桐生にとっては大学時代の先輩であり、気心の知れた相手である。
教師になったばかりの頃から桐生は困った事があると五十鈴に相談をしていた。
神崎についても五十鈴に相談をし、アドバイスを貰ったことがある。
だから、桐生の手元をチラリと見ただけで判ったのだろう。
「神崎の補習か?」
「はい。神崎が受けてくれると言ってくれまして…」
「そうか…今日の授業にもすべて出席していたようだし。良かったな。」
五十鈴の微かな笑みに桐生も口元を綻ばせる。
「本当に…」
おそらく、五十鈴の目には桐生の始めの驚きは緊張からに映っていただろう。
桐生の微笑みにそれでいいと五十鈴は頷くと肩にぽんと手を置く。
「頑張れよ。」
「はい。ありがとうございました。」
五十鈴と話したおかげで重かった気分が晴れたのは確かだった。
感謝の意を込めて桐生は笑み、会釈をする。
それに五十鈴は片手を挙げ応え、自分の席へと去っていった。
その姿を見送りながら、改めて気を持ち直す。
「さ、行くか。」
己の気を奮い立たせるように小さく呟き、桐生は教材を小脇に抱え職員室を後にした。


小会議室へ向かう途中、部活へ向かう生徒や帰宅する生徒達とすれ違う度に挨拶を返す。
職員室周辺や通常教室前は当然の事ながら多くの生徒達とすれ違う。
しかし、それも特別棟に入ると極端に少なくなった。
この特別棟は化学室や物理室と言った実験室などの特別教室がある。
だが、会議室や視聴覚室等は通常教室側の棟にあり、部活の部室としてもあまり使用されていない。
その為、特別棟は放課後になると人気がなくなり、他の空間から切り離されたかのように静かになる。
桐生は意外とこの淋しさのある静寂が好きだった。
わざわざ不便な小会議室を補習場所に選んだのはあまり使用されない教室なので普段から空いているからだが、それとは別にそういった理由もあるのだ。
辿りついた小会議室は喧騒から離れ、完全に孤立していた。
室内は更に静寂に包まれている。
まだ、神崎は来ていない。
桐生は中央に置かれた大きめの机を回り、ドアとは反対側の椅子に腰を下ろす。
キャスター付きの椅子とは別に昨日はなかった畳まれたパイプ椅子が3つ、窓際の壁に立て掛けられている。
どうやら誰かが持ってきて置いていったらしい。
机の上に教材を置き、今日使用するプリントをファイルから取り出す。
そこにコンコンと規則正しいノックの音が耳に届く。
一瞬、心臓がどきりと跳ねた。
五十鈴との会話で落ち着いた心が再び乱れるのを感じるが、深く息を吸い込みそれを沈める。
それから、桐生は動揺を表さぬように気を付けながら入室の許可を出す。
「…入りなさい。」
間を置かず、ノブが回りドアが開かれる。
姿を現した神崎は昨日と同様肩から鞄を提げ、着乱すこともなくきっちりと学ランを着込んでいる。
だが、昨日とは違いその口元には笑みが浮かんでいた。
愉快げなその表情に桐生の緊張が高まる。
「よ、先生。逃げなかったんだ。」
「何を言っているんだね。いいから座りなさい。補習を始めるぞ。」
桐生はプリントを机の上に置き、差し出す。
気丈に振舞う桐生に神崎は笑みを深める。
後ろ手にドアを閉め、昨日同様に鍵をかける。
今日はそれに気がついたらしい。
桐生が眉を顰め、神崎を見つめる。
「なぜ鍵をかけるんだ?」
問いかけに応える気配はなく、数歩の距離を神崎は縮める。
桐生は諦めた様な溜め息をつき、神崎が目の前の椅子に座るのを待つ。
が、神崎は鞄を下ろしたけれども、座ることはなく代わりに腕が伸び桐生のネクタイを掴んだ。
「神崎っ!?」
咄嗟に桐生は神崎の手を払おうと手を振り上げるが、あっさりその手は神崎に掴み取られてしまう。
机越しの遣り取りに自然と桐生の腰が浮き、ネクタイを引かれる苦しさに表情が歪んだ。
抵抗する桐生を力尽くで神崎は机の上に引きずり乗せ、押さえ込む。
暴れる桐生の手がぶつかり、プリントやファイルが床に散乱したが、二人はそれに構う様子はない。
桐生はそれに構う余裕などなく、神崎はそんなものなどどうでもいいのだ。
抵抗を封じるように圧し掛かる神埼の重みに桐生は息を詰める。
神崎の手がネクタイを解いたかと思うと、桐生の両手首を纏め上げネクタイで一括りに縛り上げられてしまう。
「補習、始めようか。先生。」
笑みを張り付かせた表情が桐生を見下ろしていた。
「ふざけるな…降りなさい…っ…」
睨みつけるような眼差しで見上げ、気丈さを消さない口調で桐生は言う。
その言葉は命令の形をしている。
だが、神崎はそれに従う様子は全く見せなかった。
桐生は焦りと不安に半ば叫ぶように声を上げる。
「止めなさい、神埼っ!」
神崎は必死にもがき、逃げようとする桐生を嘲笑うかのようにきっちりと着込まれていたスーツを乱していく。
そして、無情にも笑い交じりで述べる。
「あんまり声上げると聞こえちまうぜ?」
あまり人の少ない所だと言えど、もしかしたら誰かが近くに居るかもしれない。
その誰かに悲鳴のような声が届き、この部屋に来てしまったら…
それは助けでもあるが、桐生のあられもない姿を晒す事にもなってしまうのだ。
桐生は思わず、口を噤み抵抗を緩ませてしまう。
神崎がその隙を見逃すはずもなく、言葉を失っていた桐生の唇を己の唇で持って塞ぎ封じた。
昨日去り際に施された口付けとは違い、すぐに唇が離れる事はなく角度を変え幾度も重ね合わせられる。
桐生は顔を背け、唇を解放させようと試みるが神崎はそれを許さず、しっかりと桐生の顎を押さえつける。
「んんっ……ふっ、…――」
桐生の唇の隙間から神崎の舌が入り込み、次第に口付けは深まっていった。
長く激しい口付けが終わったとき、桐生は赤く熟れた唇で荒い呼吸を繰り返すのみだった。
神崎の手が桐生のジャケットとシャツをゆっくりと肌蹴させていく。
桐生は慌てて神崎を押しやろうとするが、両手首を縛り上げられている上にしっかりと圧し掛かられているせいで全く意味を成さない。
濡れた唇に笑みを湛えた神崎の双眸が桐生へと迫る。
「補習授業だぜ、先生…しっかりと教えてくれよ?…――あんたのイイ所。」
唇が触れ合わんばかりの距離で吐かれた言葉に桐生は眩暈を覚えた。
気を失えたならばどんなに楽だろうか、と現実逃避気味の思考が巡る。
だが、そういうわけにもいかず、再び唇を塞がれてしまう。
ねっとりと絡められた熱い舌が桐生の頭の芯を徐々に溶かしていく。
更に口付けを交わしながら、神崎は露になった桐生の肌へと手を這わせていった。
日に焼けぬ肌を撫でる手は胸元を探り、小さな突起を掠める。
瞬間、桐生の身体を甘い刺激が走りぬけ、唇の端から甘さを帯びた吐息が漏れる。
「……、…ふぁ……」
神崎はそれに瞳を笑ませ、指先で右の突起を転がし始める。
口付けと突起からの刺激だけで桐生の身体は弛緩し、快楽に溺れていく。
ゆっくりと、確実に神崎の手によって桐生の身体は変化を遂げていった。


「は…ぁん、…ひぅ…」
ぐちゅりという水音と共に引っ切り無しに甘みを帯びた嬌声が室内に響き渡る。
桐生は両手を縛り上げられ、両脚を神崎に担ぎ上げられ、曝け出された秘部の奥の蕾に神崎のモノを咥えこまされ、善がり狂っていた。
内壁を擦りあげる度に桐生の内部が絡みつき、それによって神崎のモノが肥大する。
「はっ…サイコー。」
神崎が熱い吐息と共に言い、ぐんと桐生の内部を突き上げる。
腰をグラインドさせながら敢て、イイ所を外し掠めるに留めさせる。
桐生は神崎の焦らすような動きに身悶え、机の上で背を撓らせる。
そんな桐生の姿は神崎の欲を更に煽った。
意地悪く浅い所をくちゅくちゅと掻き混ぜてやると桐生の腰が揺らめき、内部が神崎のモノを奥へと誘い込むように収縮した。
くつくつと咽喉で笑い、神崎は一気に桐生を貫く。
「センセ、慣れてんじゃねーの?」
激しく身体を揺さぶり突き上げながらの神崎の言葉はもはや桐生に届いていない様子だった。
「ふ、ぁ……ああ、んっ……」
桐生の瞳は小会議室の天井を捉える。
その視界が歪んでいるのは眼鏡を外されているから、それとも快楽で瞳が潤んでいるからか…
既に何度も桐生は達している。意識を保っているのもそろそろ限界だった。
「あああっ――」
何度目か判らない熱い飛沫が内部に叩きつけられ、同時に桐生も達する。
天井を捉えていた瞳に神崎の恍惚とした表情が一瞬映り、そのまま暗転していった。


ゆっくりと瞼を持ち上げる。
眼鏡のレンズ越しではない世界は僅かにぼやけて見えるが、元々それほど目が悪いわけではないので状況はわかる。
何があったのかを思い出し、一気に意識が覚醒した。
まず、自分の格好を確かめるときっちり衣服が整えられ、椅子に腰掛けていた。
縛られていたはずの手も解かれ、ネクタイとしてきっちり締められている。
桐生は今までのは単なる夢だったのでは、と考えが過ぎる。
「ああ、起きた?」
だが、隣から聞こえた声がその考えを打ち消した。
視線を声のした隣に向けると笑みを湛えた神崎がそこにいた。
それから自分が神崎に凭れかかる様にしていることに気が付き、桐生は慌てて身体を起こす。
腰に激痛が走り、全ての行為を肯定されてしまったような気分に陥った。
「かん、ざき…」
咽喉が掠れているのか上手く声が出せない。
「じゃ…プリント終わらせたし、俺はもう行くぜ?」
ひらひらと目の前でちらつかせられるプリントは今日の補習で使うはずのものだった。
見たところ、きっちりと問題は解かれているらしく、白い紙面を黒い文字が埋め尽くしていた。
そのプリントを机に置き、神埼が立ち上がる。
桐生はその姿を目で追い、非難するような眼差しを向ける。
「ヤり逃げか…」
「人聞きの悪いこと言うなよ。ちゃーんと始末してやっただろう?」
ドアへと向かおうとしていた神埼が振り返る楽しげな表情を見せる。
桐生は呼び止めたことを後悔し、思わず神埼から目を逸らす。
すると愉快そうな笑い声と共にドアが開かれた。
「また明日、楽しみにしてるぜー。」
ひらりと片手を振り去っていく神崎の姿を見送りながら桐生は絶望を覚えた。
神崎はまた明日と言った。
確かに、明日も補習がある。
と言う事は――


二人っきりの補習授業はまだ始まったばかりなのだ。



あとがきコーナー…かもしれないもの☆


長らくお待たせしましたー…(?)

メルマガでは4回に分けて連載してました☆

実を言うと、途中端折りました…(えへ)